新着情報

木材の腐朽と薬剤処理

こんにちは

今月のとりすみコラムを担当します、建築スタッフの東山です。

どうぞよろしくお願いします。

 

今回は、「木材の腐朽と薬剤処理」 について、お話ししていきたいと思います。

 

木材劣化の要因として、主に「気象劣化」「生物劣化」「金属劣化」が挙げられますが、

腐朽については、生物劣化のカテゴリーに相当します。

腐朽菌が生育する条件は、① 「酸素」 ② 「水分」 ③ 「温度」 ④ 「養分としての木材」です。

 

いずれか1つが欠けていれば腐朽は発生しませんが、酸素や温度を制御するのは不可能に近いです。

なので現実的な木材の腐朽対策は、水分または養分としての木材を制御することになります。

 

水分の影響を受けないようにするためには、適正な水仕舞と結露対策が肝になります。

養分としての木材の制御としては、主に以下の方法が考えられます。

① 耐久性の高い木材を使用
② 薬剤処理や、木材細胞壁の化学構造を変える科学修飾

 

① については、「製材の日本農林規格」で比較的耐久性の高い樹種を「D1」に、

その他樹種を「D2」にカテゴリー分けしています。

「住宅の品質管理確保の促進等に関する法律」に基づく告示では、

更に耐久性の高いD1の樹種群から、特に高い樹種を区別しています。 

また木材の耐腐朽性は辺材と心材で異なり、辺材の耐久性は心材の耐久性より低いです。

上の表は心材が対象となっています。

同じD1でも、ヒノキ・ヒバ等は無処理で土台に使用可能ですが、

スギ・カラマツ・ベイマツ等はK3相当の処理が必要になります。

 

②については、薬剤処理と化学修飾についての説明が必要になると思います。

まず薬剤処理ですが、加圧処理法常圧処理法の2つの方法があります。

 

加圧処理方法

加圧と減圧の組合せによって、薬剤を内部に注入する処理方法。

木材表面から深く薬剤を浸透できれば、耐久性は向上すると期待されます。

ベイマツやカラマツなど、薬剤が浸潤しにくい樹種もあます。

また、心材は辺材と比較すると薬剤は浸潤しにくくなります。

 

以下は加圧処理法を実施するにあたって、注意すべき主なポイントをあげました。

 

インサイジング

浸潤が困難な樹種の場合、木材の表面に傷をつけることで浸潤度を高めることができます。

インサイジング加工は『製材のJAS』では、欠点とみなされていません。

ただしその仕様は、

製材の曲げ強さ及び曲げヤング係数の低下が概ね1割を超えない範囲内とされています。

 

 

含水率

含水率が高い木材では、木材内の水分が薬剤の浸潤を阻害します。

薬剤処理前の木材は、適正な含水率に調整することが必要になります。

薬剤処理後は、処理前と比較して断面寸法が膨らむことがあります。

 

継手や仕口の加工

薬剤はインサイジングの有無にかかわらず表層部分だけに浸潤しているため、

薬剤処理後に継手や仕口の加工を施すと、薬剤の未浸潤部分が露出することになるので、

加工後に薬剤処理をすることが前提としてなります。

やむを得ず、

薬剤処理後に加工をする場合は、露出部分に薬剤の塗布や吹付け等を行う必要があります。

 

集成材の場合

ラミナに薬剤処理をした後、養生が不十分なまま積層すると、接着不良を生じることがあります。

薬剤や樹種、接着剤の種類に応じて、

剥離を起こさないように適切な製造計画を立て、品質管理をしなければなりません。

 

AQ認証 (優良木質建材等認証) AQ=Approved Quality

JASに定められている以外の薬剤を使用したり、製材や枠組壁工法用製材以外の木材、

木質材料に処理を行う場合には、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法:住宅性能表示)や

住宅金融支援機構監修の木造住宅工事仕様書、枠組壁工法住宅工事仕様書などで、

JASと同等とされている優良木質建材等認証(AQ)制度を適用することができます。

これは(財)日本住宅・木材技術センターが行う認証制度です。

 

JASとAQの対比は、以下の表のとおりです。

 

 

常圧処理法

保存薬剤の塗布・吹付けや浸漬によって処理する方法です。

効果は材の表面に留まりますが、設備が不要で材料加工時の処理や施工現場でも適用されます。

加圧処理法と併用されることもあります。その際は、薬剤同士の相性を確認する必要があります。

以下は常圧処理法を実施するにあたって、注意すべき主なポイントになります。

 

薬剤の塗布・吹付け

工場で実施することが原則です。

塗布量や薬剤の取り扱いは、製品カタログ等で事前に確認して、適切な施工を行います。

 

拡散法

木材中に存在する水に、薬剤の浸透圧によって処理する常圧処理法のひとつです。

ほう砂ほう酸混合物のような水溶性の薬剤が採用されています。

ただし、雨水に晒されると溶脱するため、処理後の養生が品質管理において重要になります。

 

続いて化学修飾についてですが、

 

化学修飾

木材の細胞壁や化学構造を改変することで、腐朽菌や湿気に対する耐性を高める方法です。

薬剤を注入するのではなく、木材自体の性質を変えることで防腐効果を得ます。

主な修飾方法として、「アセチル化」「ファーフリル化」「タンニン修飾」などがあります。

 

その他代表的な処理方法に、以下のものがあります。

 

熱処理

木材を高温(180~230℃)で加熱することで、

細胞壁の化学構造を変化させ、吸湿性を低下させる処理方法です。

薬剤を使わず、木材自体の性質を変えることで耐久性を高めます。

 

樹脂処理

木材に樹脂を加圧注入して、

細胞壁や細胞内腔(ルーメン)に浸透させて硬化させることで、

寸法安定性や耐久性を向上させる処理です。

科学修飾と物理的強化の中間的な技術です。

 

これら3つの処理方法(科学修飾・熱処理・樹脂処理)は、防腐性能や寸法安定性に優れています

しかし、構造材としての使用は慎重な検討が必要になります。

化学修飾・熱処理・樹脂処理の比較について、以下のようにまとめました。

 

 

 

今回は木材保存のカテゴリーから木材の腐朽、主に薬剤処理の方法についてお話ししました。

このカテゴリーはその他、気象劣化・生物劣化の蟻害対策・薬剤保存塗料・水仕舞・結露対策・

金属劣化の防錆対策など、多岐にわたる木材の耐久性に関する保存方法があります。

しかし最初だけすれば良いわけでなく、継続的定期的にメンテナンスをすることが必要です。

その為には維持管理計画を作成して、建物が末永く使ってもらえたらいいな。と思いました。

 

建築基準法第8条 要約

 

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

また次回もよろしくお願いします。

 

(参考)
『中大規模木造建築の担い手講習テキスト』 日本集成材工業協同組合
『木材保存学入門』 (公社)日本木材保存協会

あらゆる分野の建築をクリエイト